サラーム通信20110207
騒乱のエジプトから無事戻りました
サラームアリクム。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
って遅すぎますね、失礼しました。
先週2月2日水曜に40日の中東取材旅行を終え、無事帰国しました。
一部の方には大変ご心配をかけました。申し訳ありませんでした。
更に一部の方には旅先からの遠隔操作で随分と助けられました。ありがとうございました。
僕のブログやtwitterを読んで頂いている方はご存じでしょうが、今回の旅はトルコ・イスタンブール、モロッコ、エジプト・カイロと周り、後半の二週間はカイロにいて、1月25日からの反政府民主化デモのあおりをうけまくりました。
どのようなあおりかと言うと、まず音楽公演が全てキャンセルになり、取材は停止。
その上、宿の部屋に催涙ガスは流れ込むし、夜間外出禁止令で午後3時から午前8時まで外出禁止、ジェット戦闘機は頭上を飛び回り、戦車や装甲車が角を曲がる度に現れる。
タクシーに乗れば、一ブロック移動ごとに私設の自警団(日本刀や青竜刀、ナタや金属の棒で武装)にチェックされ、最後、帰国のための空港ではチェックインまでに4時間、ボーディングまで更に1時間半、トランジット地のイスタンブールでは日本行きの飛行機に間に合わず、韓国インチョンを経由して、9時間遅れで日本に戻ってきました。
でも、最後のアシアナ航空インチョン〜成田間はなぜかビジネスクラスをあてがわれ、シャンパンをガブ飲みしながら無事の帰国を祝いました。有終の美というか終わりよければ全て良しというか。
今回の取材は、随分前から書いていた中東音楽紀行の単行本の最後の章と、更に中東料理の単行本のための旅行でした。
イスタンブールではオスマン宮廷料理や女性が経営する新感覚の居酒屋で舌鼓し、モロッコではベルベル人のおばちゃんやお姉さん、シェフ達に料理のレッスンを受けました。
クスクスもタジンもこれまでよりも更にキモがわかりました。
エジプトでは高級レバノン料理やエジプト料理、その他には三茶のエコー仲店通りのウナギ屋のような風情の「鳩の御飯詰め」屋など、男子校の部室のようなエジプト庶民料理を堪能しました。
音楽に関しても、これまで生では聞いたことのなかった、モロッコ・タンジェのアラブ・アンダルース音楽やマラケシュのベリーダンス&ベルベル歌謡バンドを聞き、エジプトでは10年前のイスタンブールのようなライヴハウス建設ラッシュを垣間見れました。
カイロの新しい音楽シーンをディープに掘れると思った瞬間に、今回の民主化デモが始まり、政府側の暴力的な対応がエスカレートし、まさか、こんな形で旅が終わるとはまったく想像もしていませんでした。
想像していた以上にシーンが発展し、新しい形の音楽表現が生まれつつあるカイロですが、その新しい音楽シーンよりも、新しい社会への変革を求める力とスピードのほうがはるかに強く速かったというわけです。
現地にいた時は「なんでこんな目に合わなきゃならないの。大枚払って来たというのに」との思いが強かったのですが、日本に戻り、東京の生活を再開するとともに「僕はものすごい事件に直面したんだ」という思いが強まってきました。
仕事がら、昨年あたり「10年代の音楽は?」と何度か聞かれる機会がありました。
その度に「今はまだわかりませんが、来年あたり、2011年中にはわかると思います。ゼロ年代が2001年9月の911テロによって変わってしまったように。来年には何かが起こって、それを期に音楽も変わります」と答えておきました。
そして、本当に期待していた以上のインパクトが起きました。それがこのエジプトのデモであると僕は思います。
これは天安門、ベルリンの壁崩壊、そして911と並ぶ、大きな時代(ディケイド)の節目の事件であって、しかも、僕はそれをこの目で見て、体験してしまったのです。
2月6日現在、エジプト反政府野党の最大派閥ムスリム同胞団は与党と対話を始めてしまいました。
それじゃ元の木阿弥じゃないかと言う人もいますが、いや、300人以上の死者、3000人以上の負傷者を出しながらここまでよく頑張った。歴史は後戻りすることはない、と言う人もいるでしょう。
年末のチュニジアから始まった(いや昨年のイランから地続きか?)中東の民主化運動は、エジプト、ヨルダン、スーダン、イエメン、アルジェリア、サウジアラビアまで広がりそうです。その後は? イラン、バルカン、トルキスタン諸国、アフリカ諸国、中南米諸国、アジア、そして最後には日本まで広がるのでしょうか? 僕は政治には全く興味はないので何も言えませんが。
少なくとも、僕は今回のデモとレジームの変換が終わった後、もう一度エジプトに訪れようと思っています。
ちょっといつもより真面目になってしまい、不愉快でしたら申し訳ありません。メールを削除下さいね。来月からは元通りのレシピ入りサラーム通信に戻りますので。
さて、今月のサラームのイベント情報です。
2.14 Mon. Arabian Music & Food @Saravah東京
Arabian Music & Food
場所:Saravah東京(渋谷)
アラブの音楽や文化を二部構成で楽しむ夜。
第一部はトルコ、モロッコ、エジプト、三カ国40日の取材旅行を、まさかのエジプト騒乱に巻き込まれ、帰国したばかりの音楽ライター/DJのサラーム海上による映像トーク。カイロで取材した知られざる音楽シーン、そしてエジプト騒乱「怒りの日」の動画をたっぷり速報します。
第二部は「楽器の女王」と呼ばれるアラブの弦楽器「ウード」の第一人者 常味裕司とアラブのタンバリン「レク」奏者 和田啓による生演奏。パーカッションの駒澤れお、ベリーダンスのモトカを迎えたスペシャルな四人編成をじっくりとお楽しみ下さい。
なお、サラームがモロッコで習ったレシピを元にSARAVAH東京のシェフによるタジン料理も用意しています。常味さんのウードを聞きながら、エキゾティックなタジンを頂けるのはなんとも贅沢ですよ〜!
第一部
トーク:サラーム海上
第二部
ウード:常味裕司
レク:和田啓
パーカッション:駒澤れお
ベリーダンス:モトカ
19:00 開店 20:00 開演
Adv. 3,500円(1D付き)
Door. 4,000円(1D付き)
SARAVAH 東京
〒150-0043
東京都渋谷区松濤1丁目29-1 渋谷クロスロードビル B1
TEL/FAX 03-6427-8886
http://www.saravah.jp/tokyo/
2.17 Thu. OKI@DOMMUNE "FROM SAKHALIN TO HIMALAYA"
FROM SAKHALIN TO HIMALAYA
2010年のベストアルバムと評されたOKI DUB AINU BAND「サハリン ロック」。そのダブアルバム「Himalayan Dub 〜Mixed by OKI vs 内田直之〜」を間もなくリリースするDUB AINU BANDの首謀OKIがこれまでの貴重な海外公演の映像やニューアルバムの音源を交えながら語るダブアイヌヒストリー。サラームは聞き手です。「サハリン ロック」のPV監督でスケーターの森田貴宏も登場します。
出演:OKI (DUB AINU BAND)
サラーム海上(よろずエキゾ風物ライター/和光大学ぱいでいあ講師)
森田貴宏(FESN)
場所:DOMMUNE
日時:2月17日木曜 19:00~21:00
http://www.tonkori.com/
http://www.dommune.com/
OKIさん達、年末はネパール・ポカラで行われたグリーン電力系の音楽フェスに出演してきたそうです。サハリンに続いて、今度はヒマラヤですか! 極北から極高ですね! 極地にばかり呼ばれてしまうワイルドガイOKIさんのトーク、DOMMUNE初登場です!
DOMMUNEはもちろんwebでも見られますが、お近くの方は是非会場までお越し下さい。宇川君の言う「現場感」が全然違いますので。先着50名様くらいだと思われます。詳細は追って。
2.19 Sat. WORLD PEACE@下北沢MORE
2/19土曜はサラームが日本に戻って今年最初のDJパーティーです。
L?K?Oが超いい加減に付けた(そうじゃなかったらごめん、コウ君)パーティー名「WORLD PEACE」が、スタートして一年後に不思議と意味を持ってきました。
今回はエジプト・カイロで手に入れたエジプトの超アンダーグラウンドなダンスホール音楽「シャアビ」を中心にプレイします。基本的にロウテンポなので、アップテンポが得意な僕がどこまでかけられるか、あまり自信はないのですが、カイロで出会った沢山の親切で明るいエジプト人のために、どこまでもダサダサな音楽をプレイします。L?K?Oも昨年暮れにエジプトに行っているので、今回はエジ色が強くなりそうです。
もちろん、その前に三週間いたモロッコで手に入れたベルベル音楽なども用意しておきます。
というわけで「WORLD PEACE」よろしくお願いします!
WORLD PEACE@下北沢MORE
2/19 (Sat) 2011
Start 23:00 / 1000yen
-DJ-● サラーム海上 ● L?K?O
-BELLY DANCE-● TANiSHQ
MORE
世田谷区北沢2-18-5 NEビルB1F
03-3422-1995
http://www.toos.co.jp/more.html
イベント情報はここまで。
3月以降は東高円寺GRASSROOTSやサラームバワンでのウンム・クルスーム研究会第二弾、和光大学ぱいでいあの体験入学など予定していますが、DJの予定はまだまだ空いてますので、最新のエジプト音楽やモロッコ音楽、いつものインド音楽で踊りたい方、パーティーオーガナイザーやお店の方、是非お誘い下さいね。
さてサラーム通信と言えば料理のレシピなのですが、今回は作ってる時間がなかったので、旅先で食べて感動した料理の写真だけでお許し下さい。
イスタンブール アシタネの前菜盛り合わせ
まずはイスタンブールから。旧市街エディルネカプ、カーリエ・ジャーミーの近くにあるオスマン宮廷料理店アシタネです。
このお店のメニューはリンクしたページから見ることが出来ます。全てがオスマン帝国時代の宮廷料理。料理の説明に1539年とか、レシピが作られた年代が書かれています。二人で、アーモンドのスープ、クルミのスープ、冷菜盛り合わせ、カリンの羊挽肉ご飯詰め、羊肉の干しフルーツ&ナッツ煮込みを頼みました。ワインはトルコの赤ヤクート。
写真はその冷菜盛り合わせ。日本のトルコ料理店でも食べられるような通常のメイハネの前菜が出てくるのかと思ったら、チーズのペーストにシブレットやディルが練り込まれていたり、白インゲン豆のペーストにスグリや松の実、やはりチーズのペーストにかりかりに炙った薄切りのパステルマが添えてあったりと、初めて食べるものばかり。
現在のトルコ料理はオリーブ油やトマトなどの地中海系の味付けが中心ですが、この店は干しフルーツやナッツ、チーズなどを用いて、カフカスやさらに遠く中央アジア、トルキスタンやカシミールの料理を思わせる味付けです。近代になって新大陸からもたらされた野菜トマトは使われていません。食後のデザートはサフランで風味を付けたライスプディングとノアのプディング、これもインド=ムガル料理との繋がりを感じました。ワインを一本入れて二人で180TL=約10000円。日本ならこの値段では食べられません。
マラケシュのフェズ伝統料理店アル・ファシアの前菜盛り合わせ
二つ目の写真はマラケシュで一番人気のレストランal fassiaのやはり前菜盛り合わせ「ケミア」。
この晩はちょっと出遅れ、フランス人の夕食時間である夜の8時半にお店に着いてしまった。予約もしていなかった。店内に入ると全ての席が埋まっていて、オーナーの女性に、今は満員だから30分後にまた来て頂戴と言われる。一旦店を出て、隣のカフェ・ネゴシアンの外テラスでお茶をしていると、目の前をひっきりなしに白人旅行者が通り、アル・ファシアに入っていくが、その多くは僕達と同じく予約無しの客なのだろう。来た道を落胆して帰っていく。30分後、9時20分に店に入ると、まだまだ店は混んでいたが席は用意出来ると言われる。予約者リストには30組の名前が全て20:30に並んでいた。すごい人気だ。
この店は二度目なので、頼みたいものは決まっていた。僕は野菜の前菜、妻は鳩のパスティラ、中に鳩の挽肉を炒めたものを詰めたパイで、外側にはたっぷりの粉砂糖とシナモンパウダーが降ってある、モロッコ料理のスペシャリテだ。前菜盛り合わせは先日のフェズの家庭料理レストランと同じく14皿が並んだ。1.サラダ・モロッカン、2.ズッキーニ、3.ニンジンの甘い煮込み、4.サラダ・モロッカン、5.青唐辛子、6.ニンジンのオレンジフラワーウォーター煮込み、7.カボチャとズッキーニの合いの子のようなオレンジ色のカボチャのクミン和え、8.ラディッシュの輪切り、9.緑オリーブの唐辛子和え、10.すり下ろしたキュウリのオレンジフラワーウォーター和え、11.空豆のクミン煮込み、12.ナスとトマトのペースト、13.キュウリ、14.焼きナス。これだけの小皿が一つのテーブルに並ぶと気分が盛り上がるなあ。グリ(白とロゼの中間)ワインも一瓶簡単に空いてしまう。
アル・ファシアにはモロッコの基本的な料理しかないが、一つ一つがとても丁寧に作られていて、材料もしっかりと厳選されている。それに前菜二品、メイン一品なら日本人二人にはちょうど良い量。お腹もはち切れずに済んだ。会計はワイン込みで550ディラハム=5500円。何が良いとはうまく言えないのだが、三週間のモロッコ滞在中最も美味い飯だった事は間違いない。シーズンオフのこの時期にこれほど混むのも納得。
カイロ・ハーン・ハリーリーの鳩詰め老舗ファラハトのハマーム・マハシー
三つ目の写真はエジプト・カイロで食べた鳩のご飯詰め「ハマーム・マハシー」。
現地在住のサイード&ミレイユ夫婦にイスラミックカイロにあるハーンハリーリー名物の鳩のご飯詰め専門店フラハトへ連れて行ってもらった。サイードに鳩のご飯詰めの正しい食べ方を教わりながら頂く。これが感動する美味さ。鶏と比べて身は少ないが、コクがあり、まさにジビエの味。付け合わせの鳩出汁スープもレモンを搾って濃厚な出汁をガラスのコップで頂く。中のご飯にも鳩の味が染みていて最高。ミレイユさん曰く「精が付くと言われている料理なんです。日本で言うとウナギかしら」。まさにその通り! ウナギもご飯とセットだし、精が付く料理だし、味付けもなんとなく似ている。お店のオンボロで体育会系な佇まいも含めて! 鳩のご飯詰め「ハマーム・マハシー」はエジプトの鰻重なり! あんまり美味いので翌々日に再び訪れてしまった。
それでは今日から通常営業に戻ります。旅で一財産使い果たしてしまったのでフルに働かねば! 気になる音楽や料理がある方、仕事を是非よろしく。そして本年もよろしくお願いします。